深泥池における外来魚資源抑制手法

−外来魚資源抑制マニュアルの応用−

桑村 邦彦


オオクチバス、ブルーギル(外来魚)の資源抑制の考え方、方法については、全国 内水面漁業協同組合連合会編ブラックバスとブルーギルのすべて(1992)第2章、資 源抑制技術マニュアルにとりまとめられている。そのマニュアルの対象水域に深泥池 をあてはめ、ここで想定できる方法を手順にそって説明する。

1. 水域形態調査

抑制対象水域の地形や水深、水質、水生植物、障害物などを事前に調査することは、 外来魚の適切な捕獲方法や繁殖阻止の手法の選択に重要な資料となる。深泥池は水深 2m、中央部までヒシなどの浮葉植物が生育する底質が泥の水域で、湖沼の一般的な 分類では「沼」に位置づけられる。深泥池はさまざまな角度からすでに調査されてお り、水域形態に関するデータは既存のものが利用可能である。

2. 生態調査

深泥池での外来魚の繁殖生態、成長、年齢組成、食性や在来生物の状況を、標本調 査で明らかにし、水域形態調査と併せて抑制対策手法決定の資料とする。深泥池の場 合は水域形態などから見て、標本採集漁具として、小型定位置網(張網)と投網が適 している。平成10年の当研究会の調査によって、オオクチバスやブルーギルの体長組 成、成長、産卵状況、食性、など深泥池における生態の資料が集まりつつある。

3. 資源量推定

資源抑制前に外来魚の資源量を把握し、実施後の資源量と比較することにより、抑 制効果判定と努力量調整の資料に用いることができる。閉鎖水域である深泥池での資 源量推定は、標識放流手法が標識魚の流出を考えなくて良いので、比較的実施しやす い。また張網などの定置性漁具をモニター漁具とすれば、単位漁獲努力あたりの漁獲 量(例えば張網1統あたり)の変化で資源変動を相対的に見ることも可能である。 

4. 捕獲による資源抑制

捕獲により資源量を抑えるためには、その資源の再生力を上回る捕獲を行う、いわ ゆる「乱獲」の状態にまでもってこなくてはならない。そのため用いる漁具は、その 水域に合った方法で、いかに効率的に漁獲できるかを基準に選択を行う。深泥池の水 域形態や水生植物、操業体制などから判断すると、捕獲漁具は張網を主に投網、刺し 網を状況に合わせ用いるのが最適と考えられる。

当研究会の調査により外来魚や他の水生生物の体長組成もほぼ明らかになっている ので、捕獲対象となる魚種のサイズと出現時期に、張網の袋網や刺網、投網など各種 漁具の目合を合わせた方が効率的である。たとえば刺網では、その時期の体長のモー ドに目合を合わせた方が効率的であり、また目合により親魚サイズを選択的に捕獲す ることも可能である。張網については、外来魚の0年魚が獲れ出す時期には目合を小 さくし、秋から春にかけてはモツゴなどの在来の小魚が抜ける目合にするなどである。

現在、深泥池には2統の張網が設置されているが、目合の検討を含め、操業労力の 可能な限り統数を増やした方が望ましい。また刺網、投網も併用した方がより捕獲率 を高められると思われるが、操業に関しては在来の植物群落、水生生物にできるだけ 影響の少ない方法や場所で行わなければならない。

5. 繁殖阻止による資源抑制

捕獲だけで資源量の抑制を行うには相当な努力量が必要となるが、繁殖阻止の併用 で資源再生力を低下させ、資源抑制効果が向上する。繁殖阻止の内容は産卵場と産卵 期を特定した上で、親魚や仔稚魚の捕獲と産卵床の破壊を行うことである。

a. オオクチバスの場合

オオクチバスの産卵場所は水深50cmから3mで、流れがなく風波が当たらない所で、 底質が砂礫底の水平面であることが条件である。深泥池のように全体が泥深い底質の 場合、産卵場が限定されるため、繁殖場所を特定することは比較的やさしい。平成10 年度の春にオオクチバスの産卵が確認されたのは、南西角の水門から公園前と東岸の 遊歩道沿いのごく岸よりの砂礫底で、この範囲が深泥池での主な産卵場と思われる。 しかし卵の付着基体があれば、コンクリート面、ヨシの根、捨てられた板などにも産 卵するため、他の場所での産卵の可能性は否定できない。産卵の時期は水温の影響を 受け、15℃以上になる頃から始まるため、繁殖阻止のタイミングを逸しないよう、春 先の水温変化には気をつけておかなければならない。

親魚は産卵期が近づくと、産卵適地を求め移動するため、捕獲するには産卵場近く に定置網を設置するか、親魚サイズにあった目合の刺し網を使用する。

オオクチバスの産卵床は、直径数十cmの範囲を保護親魚が尾びれで砂泥を払いのけ た「すり鉢状」の形態をしており、周りとの色の違いや、雄の保護親魚がいることで 確認できる。この場合、偏光サングラスをかけると発見しやすい。

産卵床の破壊は砂を被せることで卵は死滅する。また産卵床が岸から離れていたり、 場所を特定できなくても、保護親魚を取り去ることにより、卵や浮上前の仔魚はブル ーギル、モツゴなどにたちどころに捕食され、産卵床は破壊される。

オオクチバスの保護親魚は産卵床の卵やふ化仔魚を守るため、人にまで攻撃してく るほど攻撃性が強いが、餌を食べず、産卵床から離れないため、釣りや刺し網では捕 獲しにくい。しかし引っかけ釣りやヤス、障害物がなければ投網で簡単に捕獲できる。 このように産卵床破壊だけでなく親魚も捕獲・除去することは、新たな産卵を防ぐ意 味でも繁殖阻止の効果は大きい。ただし、この方法で捕獲できるのは雄だけである。

繁殖期の雌親魚は産卵場付近を移動しながら、産卵に待機していると思われ、刺し 網や張網、釣りにより捕獲可能と考えられる。

浮上直後の仔魚は高密度の群で、しかも遊泳力が弱いため、目の細かいタモ網で群 のほとんどが捕獲可能である。ただし群を目視で発見する必要があるため、深泥池の ように透明度がよくない所では困難な場合がある。しかし風波のない晴れた日は水面 近くを群泳することが多く、そのような日を狙って試みれば十分発見可能である。こ の場合も、偏光サングラスをかけると発見しやすい。

稚魚は被鱗体長3cmあたりから、群が解消するのでタモ網での大量捕獲は不可能と なるが、定置性の漁具(エリや張網)には捕獲されやすく、目合をあわせた張網など を産卵場近くに設置することで捕獲できる。

b. ブルーギルの場合

ブルーギルの繁殖はオオクチバスと同様、雄が砂レキ底にすり鉢状の産卵床を作り 卵を守る。産卵開始時期は水温20℃以上になる頃からで、ちょうどオオクチバスの産 卵のあと、ブルーギルが同じその場所を利用することになる。しかし繁殖生態には違 いが見られ、オオクチバスが産卵床を数m間隔で作るのに対し、ブルーギルは隣接し て作るため、産卵適地が同じ面積であっても、オオクチバスより多くの親魚と産卵床 を繁殖阻止の対象としなければならず、多くの労力を必要とする。また生態特性の違 いから、保護親魚や浮上仔魚を効率的に捕獲するなど、効果的な繁殖阻止法が今のと ころ確立していない。ただし、深泥池の産卵場が限られた範囲で特定できれば、網や 竹簀などで産卵適地を隔離し、親魚がそこに入れなくすることも有効かもしれない。

6. 抑制努力の効果判定と継続

一連の資源抑制対策の実施と平行して、効果の判定 を行う必要がある。抑制効果は、その後の標識放流調査結果で資源量の減少として判 定できる以外に、年齢組成の若齢化、努力量当たり漁獲量の減少、産卵床・稚魚群数 の減少、0年魚加入量の減少などで判定できる。判定で抑制効果が少なかったり、見 られない場合は、捕獲や繁殖阻止の努力量が足りないか、手法が適切でないことが考 えられ、対策全体の再検討が必要となる。ただし生物は資源回復能力があるため、絶 滅にまで持っていくには、多大な努力量が必要である。したがって、相当量の抑制努 力を継続的に行うことによって、資源を低いレベルに抑制維持することが現実的と思 われる。

7. 深泥池の外来魚資源抑制の考え方

平成10年に実施した標識放流により、オオクチバスは数百尾のオーダーと推定され、 オオクチバスが予想以上に少ない資源量の結果となった。深泥池は全体が泥深く、オ オクチバスの産卵場所は限定されているが、平成10年の調査では、72ヵ所の産卵床と、 多くの0年魚の加入が確認されており、産卵場所の不足が資源量の制限要因となって いるとは言い難い。一方、張網の標本調査によると1歳以上の大型個体はきわめて少 なく、0年魚の加入量は多いが、減耗が大きいのではないかと推察されている。これ は、本来の餌であった在来種の減少と、餌の対象としてはあまり適さないブルーギル の増加など、オオクチバスにとっての餌環境が悪化していることに起因するのではな いだろうか。このことは標本が整理されれば、年齢組成や成長、食性などから明らか になると思われる。現在の状況から考えると、オオクチバスは大型魚を中心にした捕 獲と繁殖阻止を重点的に行うことが、資源抑制に最も効果的と考えられる。

一方、ブルーギルは数万尾のオーダーと推定され深泥池の優占種としての地位を確 立している。本種は繁殖力の強さ、食性の幅などから魚類や水生植物、水棲昆虫、貝 類など既存の生態系に与える影響は大きく、資源抑制は必要かつ重要な課題である。 しかし、これまでにも述べたように有効な手段がなく、捕獲により資源抑制を図るし かないのが現状である。

しかし、ブルーギルの深泥池への進入は私(小中学生の頃)の観察では、オオクチ バスより早く、在来魚の中で当初は低い資源量で推移していた。その後、オオクチバ スの進入と繁殖を後追いするように増加して現在に至っている。これはオオクチバス が在来魚を捕食することにより空白となった生息空間を、食性の幅や繁殖力、オオク チバスの捕食に対する適応力の高いブルーギルが占有したことが理由に考えられ、琵 琶湖など他の水域でも同様の傾向が見られる。反対に、今後の資源抑制の実施や生息 環境の悪化などでオオクチバスが減少し、タナゴ類やカワバタモロコなどの在来の魚 類相が回復すれば、生息空間の競合によりブルーギルの資源量が抑えられるのではな いかと予想され、今後の外来魚と在来魚の関係や資源動向に注意していきたい。

8. 参考資料

全国内水面漁業協同組合連合会(1992):ブラックバスとブルーギルのすべて,外 来魚対策検討委託事業報告書,第2章資源抑制技術マニュアル

森川陽平・竹門康弘(1998):深泥池水生動物研究会,第2回外来魚捕獲事業中間報 告会資料.


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