深泥池におけるカメ類の生息状況 (中間報告)

中島みどり・樋上正美 (京都大学理学部動物学教室)


1998年3月15日から11月8日までのほぼ8ヶ月間に深泥池では定置網2基によって カメ類のべ503匹の捕獲があり,同所的に6種のカメ類(クサガメ 387, イシガメ 33,アカミミガメ 60,スッポン 12,ワニガメ 4, ミナミイシガメ 3,雑種 4)が生息していることが確認された. 在来種のクサガメ,イシガメ,ミナミイシガメに関しては捕獲後,種類,性別, 年齢,背甲長,腹甲長,最大甲幅,最大甲高,体重を記録,縁甲板に電気ドリルで 穴をあけ,マークした後池に放逐し(スッポンは同様なマーク方法が困難なため 測定後そのまま放逐),外来種であるアカミミガメ,ワニガメは測定後, 池には戻さずに他に引き取り手を探した.ちなみに,3月15日から3月27日の間に 捕獲されたカメ類は種が特定できていなかったため, 以下の表,図のデータからは除いた.

クサガメ:
北海道を除く日本,中国南部,朝鮮半島,台湾に分布.平地の河川や池沼, 水田などにすむ.側頭部などの皮膚や甲板に横緑色のすじがあるが, 年をとったオスは真っ黒になる.背甲に3本のキールがあり,後縁は丸い.雑食性.
ニホンイシガメ:
北海道を除く日本にのみ分布(日本固有種).山のふもとの河川,池沼,水田など にすむ.後縁は鈍いのこぎり状.背甲は黄褐色,腹甲は黒色. 幼体は背甲が丸く色も褐色で「銭亀」とよばれる.雑食性.
ニホンスッポン:
北海道を除く日本,中国南部,朝鮮半島,台湾,インドシナ北部に分布.河川や 池沼の水底が砂泥質の水域にすむ.甲羅には他のカメのような鱗板がなく, 柔らかな皮膚におおわれており,みずかきがよく発達している.ほぼ肉食性.
ミナミイシガメ:
日本(京都府と滋賀県の一部,沖縄の与那国島,西表島,石垣島),中国南部, インドシナ北部,台湾に分布.背甲は淡褐色でなめらか,腹甲には黒い斑紋. 主に夜活動する.本州の個体群は大陸と同亜種で人為的な分布と思われる.
ミシシッピーアカミミガメ:
アメリカ合衆国に分布.植物質が多く,底が泥質の流水のないところ にすむ.眼の後ろに赤い筋がある,幼体は明るい緑色で, 「ミドリガメ」の名で売られていることが多く,日本各地で帰化している.
ワニガメ:
アメリカ合衆国南部に分布.深さのある河川や湖沼の植物の多いところにすむ. ワニの背中のような甲羅をもつ.

以上(千石 マルチメディア爬虫類両生類図鑑)より

さらに,2種の形態的特徴を備え持ったカメが4個体(もしくはそれ以上) 確認された.大きくわけて3つの組み合わせと思われる個体 (クサガメとイシガメ,クサガメとミナミイシガメ,クサガメとアカミミガメ) がみられた.

1998年3月から11月カメ類捕獲状況

6種のカメ類のなかではクサガメの捕獲が一番多く, 以下,アカミミガメ,イシガメ,スッポン,ワニガメ, ミナミイシガメの順であった(表1).

Table 1

クサガメ個体数推定

もっとも多く捕獲されたクサガメ128個体で個体数推定(ピーターセン法)を行った結果 158匹であった.この個体数推定によると, すでにクサガメの85%にマークがついていることになる. しかし,もし池のなかで個体ごとの行動範囲の選好性があるとしたらならば(実際の ところはわかっていない),これは定置網2基周辺に生息すると思われるクサガメの 個体数推定であって,池全体での個体数はこの限りではないであろう. これを確認するためにも来年は定置網以外の場所でわなかけをしてみる 必要がありそうだ.

クサガメ性比

クサガメのみの結果であるが,雄が98個体,雌が38個体で性比は♂ : ♀=1 : 0.38 と雄が雌より倍以上多い.ちなみに他の調査地でもクサガメの 性比が雄に偏っていることが確認されている.

上の2つの調査地と比べて,深泥池のクサガメの雄へ極端な性比の偏りの理由として, 一つには,性別での行動習性の差が捕獲方法や場所に反映されたことが考えられる. 深泥池以外では岸辺の浅いところでのカゴワナによる捕獲であるのに対し, 深泥池では池の中ほどに設けた定置網であることが雌の捕獲数の減少につながった 可能性がある(これも定かではないが). いずれにせよ,3調査地ともに雄に性比がかたよっているが, その理由ははっきりとはわからない.

クサガメ再捕獲

再捕獲は最高10回,3個体(個体No.201♂,204♀,207♀)において確認された.以 下,再捕獲9回が1個体(個体No.207♀),再捕獲8回が0個体,7回,6回がそれぞれ4 個体,5回が11個体,4回が4個体,3回が26個体,2回が30個体,再捕獲されなかっ た個体が52個体(うち30個体は9月以降に捕獲されたものである)であった.

ミナミイシガメ

今年捕獲された3匹のミナミイシガメのうち, 2匹は定置網で,残りの一匹は浮島に仕掛けたねずみ取り用のワナ (8月の網上げ中に試験的に一回仕掛けてみたもの)で捕獲された. このことから,ミナミイシガメの捕獲数は,捕獲方法や場所をかえることで 少しは上がることが期待される. また,道路で轢かれて死亡したと思われる個体1個体が見つかっている.

アカミミガメ

60匹中,背甲長などのデータをとったものは38個体であった.そのうち背甲長100mm 以下,200mm以上がそれぞれ8個体ずつであった. アカミミガメは研究用に横浜国立大学環境科学研究センターの 竹中氏に引き取っていただいた.

ワニガメ

4匹のうち,3匹はそれぞれ京都府立鴨沂高校の成田氏, 大阪市立博物館の和田氏,琉球大学熱帯生物研究センターの 安川氏に引き取っていただいた.残りの1匹は捕獲後逃げられてしまった.

クサガメ背甲長

クサガメの背甲長最頻値は,雄155mm,雌175mmであった. 雄のほうが雌より小さい.これはイシガメも同様である. 背甲長80mm以下の若齢個体は捕獲されなかった(図1).

Figure 1

月別捕獲状況

クサガメ,イシガメ,アカミミガメ3種ともに9.10月の捕獲が多い. 8月は網を上げていたため,試験的に一回だけかけたカニ捕り用の カゴワナによる捕獲の結果である.よって,捕獲数は少なく, 他の月と対等に比べるとはできない(図2).

Figure 2 Figure 2
図2. 月別捕獲状況(縦軸は捕獲数)

クサガメ雄黒化現象

クサガメ雄全体98個体中,黒化しているかかどうかを記録したものは82個体であった. そのうち86%の71個体において完全な黒化が確認された. 黒化は雄の老熟した個体に多くみられる(千石 1979)ことから, 捕獲されたクサガメ雄はほとんどが老熟個体であるといえる(図3).

Figure 3

年輪から求めたクサガメの成長曲線

雄,雌とも7?10歳で成長が飽和しているように見えるが,実際は雌は背甲長200mm以 上成長する.しかし,そのころには年輪もすり減っているものが多く, 齢が確定できなくなっているのでこの図のデータからは省いた(図4).

Figure 4

クサガメの肥満度の季節変化

雄,雌ともに秋のほうが春よりも有意に肥満度があがっている. 冬眠明けした春は痩せていて,春,夏,秋と徐々に栄養を蓄え, 11月から12月にまた冬眠にはいる,というサイクルの結果であると思われる(図5).

Figure 5

謝辞

深泥池のカメ類のデータを集めるにあたって深泥池水生動物研究会の多くの方々の ご援助とご支援をいただいた.そのなかでも特に毎回のように網上げ作業にたずさ わっておられた井上庄助氏にはカメ類の捕獲の細かい記録作業を,伊藤昭雄氏, 田末利治氏には,魚の調査にはやっかいものの臭くて重くて,そしてなにより かわいいカメ類の網あげ,いけすでの保管に関して全面的に協力していただい ただけでなく,データのまとめ方への貴重なアドバイスをしていただいた. 末尾ではあるが,これらの方々に厚く感謝したい.


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