深泥池の保全活動におけるWWWの活用

高井 利憲


はじめに

最近インターネットというのが世の中で流行ってますが、 そのメディアとしての特徴から、 市民活動に役立てようという動きが近年特に活発になってきています。 インターネットを一言でいえば、世界中のコンピュータが自由につながっているもの ということができます。コンピュータは情報を扱う機械ですので、 例えば、みなさんの家のパソコンがインターネットとつながっていれば、 世界中の人と情報のやり取りができることになります。 インターネットでできることはたくさんありますが、 市民活動のためのメディアとして主に使われているものに、 電子メールとWWWというものがあります。 今回は その中でもWWWというものを中心に、インターネットが深泥池の保全に どう役立つのかを考察していこうと思います。

WWWについて

WWW(World Wide Web, ワールド・ワイド・ウェブ) とは、ひとことで言えば、世界中のコンピュータに入ってる様々な データを手軽にみることのできる仕組みのことです。 WWWの扱うデータはウェブページと呼ばれる文書の単位から 成り立ってます。 あるウェブページの集合の中で中心となってるものがあるとき、その ウェブページをホームページと呼びます。 また、ある団体または個人が、 その団体または個人に関連する情報を公開しているウェブページの集合 およびそのうちの一つを その団体または個人のホームページと呼ぶこともあります。 単に、ウェブページをホームページと呼ぶことも多いです。 図1は、 今回紹介する深泥池水生動物研究会のホームページです。 これは、 インターネットにつながっていれば世界中どこからでも見ることができます。 ここで、例えばアンダーラインの引かれている (*1) 「調査・捕獲事業」のところをマウスでクリック (*2) するとそこに関連付けられた別のウェブページが 表示されます。それが図2です。 ウェブページを関連付けることを リンクするといいます。 さらに、「えり網」のところをクリックすると 図3 のような画面になります。これは実際にはカラーの写真がみれます。 このようにWWWは画像・動画・音声 などのデータも手軽にあつかえることに特徴があります。 さらに、「ホームページに戻る」のところには図1 のホームページが リンクされています。このようにリンクでつながっている文書をハイパーテキスト と呼びます。またリンク先のウェブページは世界中どこのウェブページに 関連付けてもよいことにWWWの特徴があります。 つまりWWWは有機的に関連付けられた世界中の情報を 手軽に閲覧することのできる仕組みということができます。 ウェブとは蜘蛛の巣という意味です。 ウェブページの特徴をまとめると次のようになります。

  1. ハイパーテキストである。
  2. マルチメディアである。

また、インターネットの情報は電気などで やりとりされてますから地球の裏側のウェブページでも隣の家の人の のページでも時差なく瞬時に見ることができます。 さらに電話と違ってインターネットは距離による利用料の違いはありません。 国境なんて概念もありません。 リンクをたどって世界中のウェブページを見ていく ことをネットサーフィンと呼びます。 つまり、インターネット上に限って言えば、 地理的な距離の意味はなくなったということができます。 ここでWWWのメディアとしての特徴を列挙してみます。

  1. 誰もが世界規模で情報の発信・収集ができる。
  2. 双方向性がある。
  3. コストが安い。
  4. 情報の蓄積・整理・検索が容易。
  5. 小さな意思を集めれる。

まず、1. と2. についてです。 従来のマスメディアは情報の発信者・発言者というのは ごく一部の人間に限られていて、その他の人間はそれをただ受け入れるしかありません でしたが、WWWでは全員が簡単に世界規模での情報の発信者になれます。 また、すべての人が発信者になれるため、 そこには膨大な情報がありますが、それらを扱うための技術は 日々進歩しています。 例えば、検索エンジンとよばれるものは、 世界中のウェブページのなかから「深泥池」という単語が入ってるのを さがしてこい、と命令すると瞬時にすべてを探してきます (*3)。 しかし、WWWは従来のマスメディアのように口をあけていれば情報が 天から降っているということはありません。 こちらから能動的に情報にアクセスになければなりません。 このため、どの情報が自分にとって正しいのかを判断する 能力が必要になります。また、インターネットは 通信主体が対等であることが基本ですので、通信の双方向性 が保証されています。具体的には、WWW上の情報に対する反応は 直接その発信者へ電子メールで行えばいいですし WWW上でも見にきた人が参加できるページがたくさんあります。

次にコストに関して言えば、なにも世界規模に情報を発信するつもりでなくても、 例えば何かの会の会報を印刷して会員に郵送で送ることと比べるだけでも 格段に安くなります[3,7]。 ホームページ無料開設サービスもあります[12]

次に情報の蓄積・整理・検索についてです。 コンピュータはもともと情報を扱う機械ですから、 これらはすべて得意分野です。 たとえば今から百年後に深泥池にコケムシが大発生したときに、 「コケムシ」と「深泥池」いうキーワードで検索エンジンで探せば たぶん1998年に作成したこの研究会のページや守る会のページ [11]とかがひっかかると思われます。

小さな意思を集められる、というのは、 例えば、[10]では、ホームページを開いただけで 9日間に5000以上の電子メールでの署名が集まった経緯が書いてあります。 さらに、インターネット上での小額決済の仕組みが実用化されれば、 その可能性は大いに広がると思います。

保全活動におけるWWWの役割

WWWのメディアとしての特徴をふまえた上で、保全活動における WWWの役割をまとめてみます。

  1. 広報活動
  2. 情報の収集および共有
  3. コミュニケーション
  4. シロウトの学問

広報活動というのは世界に広く深泥池とその地域の市民の活動を 知ってもらうということです。 今までは、このようなことをする場合、マスメディアに働きかけなければ 実現できませんでしたが、インターネットでは簡単に自分たちでできてしまいます。 したがって、従来のマスメディアの役割は相対的に低下していくと思われます。 また、本研究会の活動を強くアピールすれば、世界の深泥池ファンの人たちの 賛同が集まるかもしれません。そうすれば、行政に頼らずとも、 自律した活動ができるようになるかもしれません。そうなれば 行政の役割も相対的に下がってくると思います。

次に、情報の収集および共有ということがあげられます。 これは、ウェブ上の深泥池に関する情報をしらべたり、 あるいは他に本研究会と同じようなことをしている団体を探して その活動を参考にしたりするというのが考えられます。 逆に、私たちの活動をウェブ上で公開しておけば、 ほかからみれば重要な資料になっているわけです。 またそれら他の団体とのコミュニケーションが重要になってくると思われます。

コミュニケーションといえば、電子メールでのやりとりだけでなく、 例えば、ウェブページ上に電子掲示板システム (*4) というのもあります。 電子掲示板システムとは、見にきた人がだれもが書き込める、 公開の議論の場のようなものです。そこで例えば、 ブラックバスのルアー釣りのキャッチアンドリリースの是非についての 議論を行えば、ルアー釣りをやる人ともコミュニケーションがとれるかもしれません。 また、インターネットは議論をする場には事欠かず、電子掲示板システムのほかに、 ネットニュースやメーリングリストなどがあり、どこかの立法機関などより よっぽど意味のある議論が毎日なされています。

最後に、シロウトの学問についてです。 これは最近よくいわれることですが、インターネットが使えるようになって、 情報という面でいえば、プロの研究者とシロウトの研究者との差がなくなった ということです。さらに、深泥池の研究であれば、深泥池の近くに住んでる 人の方が有利なのは言うまでもありません。有利というより、 深泥池のことは、深泥池に古くから住んでいて、深泥池の近くに住んでいて、 毎日深泥池を見ているひとしか気がつかない小さな不思議がたくさんあると思います。 それらについて、疑問に思った人それぞれが深く調べていけば、 その成果は深泥池の保全に大きく貢献すると思われます。 情報について差がないとは、具体的には、世界中の文献がWWWで誰でも利用できますし、 さらに、自分のホームページで研究結果を公開すれば世界中の人に 見てもらえて、研究の支援者が現れるかもしれません。 つまり、これからは研究をしたいと思ったときその人がその場で研究をしていく 時代になるということです。例えば、外来魚の、生態系への影響調査 といった研究がないとわかったときに、自分の足元は見ずに 外国ばかり行っている職業研究者の怠慢を責めるのではなく、 これからは、自分たちで研究を行っていくべきです。 日本には個人で自分の家の近くの池のブラックバスを駆除しようとしている人たちが たくさんいると思われます。しかしこれらの行動は ただやみくもに釣上げるだけで、ほとんど自己満足的なものですが、 これらの人たちがきちんと必要なデータをとって それぞれ自分のホームページ上で公開すれば、それらにリンクを張るだけで、 価値のある一つのデータベースが出来上がることになります。 このような、市民が主体となってなにか行動を起こす という流れは行政やマス・メディアについても言えることです。 なにか困っていることがあったときに、 なんでも行政に任せるのではなく、市民ができることは市民で していくべきです。なにか世の中の人に知ってもらいたいことが あるときは、マスメディアに頼るのではなく、自分たちで広報活動を 行うべきです。そのための有用な道具がインターネットまたはWWWであると言えます。

インターネットの問題点

インターネットにも様々な問題があります。 まず、そもそも電気を使うメディアであるということです。 その電気が化石燃料によるものであれば少なからず地球温暖化に貢献している ことになります。原子力発電の電気を使ってる可能性もあります。 また、まぎれもない大量消費社会の一員である パソコンというものを買わなければ使えないというのもメディアとしては まだまだ発展途上であるといわざるを得ません。

まとめ

以上見てきたように、本稿のまとめとしては、WWWは様々な可能性があり またこれからの課題も多いが、 現時点では、深泥池の保全活動をしていくうえで、 広報活動・情報の収集および共有・他とのコミュニケーションに有用である、 といえます。

文献紹介

インターネットの入門書としては [6,7] などがよいです。 インターネットの歴史や仕組みだけでなくその考え方や社会的インパクトについても わかりやすく述べられています。もっと簡単なのがほしいというかたは、 知っている人に聞いて実際に使ってみるのが一番だと思います。 インターネットを市民運動に活用することについては [4,5,8] などがあります。またこれらには、 インターネットとWWWについての簡単な解説とそのメディアとしての 特徴もまとめてあります。[4] には フランス核実験反対署名を世界中からあつめた日本の大学院生のホームページの いきさつが詳しく書いてあります。 シロウトの学問については『季刊・本とコンピュータ』という雑誌の 1998年秋号で特集しています[3]。 インターネットでの学術情報などの収集については [2] などが参考 になるかもしれません。


(*1) 実際は色が違うのですぐわかる。
(*2) 要するに「調査・捕獲事業」のところがボタンのようになっていて そこを押すということ。
(*3) 実際にはあらかじめウェブページのデータベースを作っておき そのなかから探してくる。
(*4) 深泥池水生動物研究会のホームページにはまだありません。

参考文献


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