深泥池水生動物研究会の発足経緯と事業の概略〜

竹門康弘(大阪府立大学・総合科学部・自然環境科学科)


背景

 深泥池生物群集の価値が公に認められ,1997年から京都市によって段階的に 深泥池の買い上げが実施されています.貴重な深泥池が公有の財産となることは, たいへん喜ばしいことではありますが,その保全と利用をめぐっては多くの問題が 残されています.深泥池の現状は,水質の悪化・湿性遷移の進行による陸地化・外 来動植物の侵入による生物群集の変貌など,決して好ましい状況ではありません. それらの保全対策を早急に実施する必要があります.いっぽう,市民による利用を 促す目的で安易な整備をすれば,周回道路と護岸により自然の失われた宝ヶ池の二 の舞となる危険もあります.
 そこで,京都市文化財保護課は,1997年10月から1年間にわたって深泥池 保全活用委員会を設け,深泥池の保全と活用のあり方を検討してきました.この委 員会は,行政主導の委員会としては,NGOの代表を委員として加えた点で画期的な組織でした.委員会では,深泥池の保全と活用上の問題点として,上記のほかにも,釣り人による植物群落の破壊,植物の盗掘などの問題,浮島への侵入が公有地となることによってかえって増加する懸念なども論議されました.そして,こうした事態に対応するために,保全と活用拠点としての博物館やレンジャーなどの人員を確保する必要性を答申しましたが,人員削減の時勢柄,実現されるまでにかなりの時間を要する恐れがあります.このような情勢下で深泥池を保全と活用を体現していくためには,行政に全てをまかせるのではなく,市民サイドでもアクションを起こす必要がります.

外来魚捕獲調査事業実現までの経緯

 京都市文化財保護課は,前記の保全活用委員会の活動に先立ち,1994年度から5年間にわたり文化庁の補助事業である「天然記念物深泥池生物群集保全事業」を実施してきました.これまでに病院からの排水系統の改善,地下水導入の準備,外来植物の除去,北側開水面の掘削などが実施されています.本書で中間報告する外来魚捕獲調査事業も,その一環として1997年度と1998年度に行なわれたものです.この事業は,公式的には「天然記念物深泥池生物群集保全事業にかかる生物群集管理」として深泥池水生動物研究会に依託されています.
 「天然記念物深泥池生物群集保全事業」が始まる当初より,深泥池の動物群集に重大な影響を与えていると考えられるオオクチバス(ブラックバス)とブルーギルについて,個体数抑制策や釣人による放流抑制策が必要であることを訴えておりましたが,この問題には手が付けられないまま3年目を迎えました.97年になって,京都市深泥池学術調査団(団長:遠藤彰)を通じて,この事業の期間中に具体策を実施するよう京都市文化財保護課へ強く申し入れましたところ,逆にその方法の検討を依頼されてしまいました.そこで,97年の秋に外来魚捕獲事業の経験をお持ちの滋賀県水産試験場の高橋誓さん,ならびに琵琶湖博物館の桑村邦彦さんにご相談しました.その結果,個体数抑制については,えり(小形定置網)による捕獲が最善の方法であろうということになり,琵琶湖の漁師さんに依頼して深泥池用にえり2張を制作することになりました.この網は,障害物に沿って泳ぐ魚の習性を利用した漁具で,魚を誘導する網を左右に立てて魚を中央の網袋に追い込むものです.ただし,この方法は,少なくとも2日に一度は捕獲作業をする必要があります.そうしないと,袋網に捕獲 された在来魚やカメなどの動物が,弱ったり死んだりするからです.しかも,水生動物群集に対するブルーギルやオオクチバスの影響については,必ずしもよく調べられている訳ではなく,改めて調査しなければ分からないことばかりでした.したがって,単純に害魚を駆除するという作業ではなく,できるだけ各魚種についてのデータを集め生態学的な知見を得なくてはなりません.
 えりの購入と設置については,市の提示した予算で十分でしたが,その後の捕獲作業・計測記録・標本作成・えりの維持管理などを考えると,相当の人手や労力のかかるあることは明かでした.もし,これだけの作業を業者に依託すれば莫大な人件費が必要となります.当初この作業を京都市の職員や非常勤などでできないか文化財保護課の菅沼裕さん(文化財保護技師)に相談しましたが,菅沼さんご自身が週2日程度参加するくらいが限界とのことでした.したがって,菅沼さんの来られない残る少なくとも週2日について誰かが責任もって捕獲作業に当たることができなければ,この事業を有効に進めることは困難でした.

深泥池水生動物研究会の発足

 このような外来魚捕獲調査活動の担い手として期待されたのが,研究目的の学生さん(大学学部生や院生)・中学高校の生物部など(顧問の先生との共同作業)・地元住民の有志の方々でした.上記目的に最も合致するのは,オオクチバスとブルーギルの生態やこれらの魚類と水生動物群集の関係について興味ある学生さんに,卒業研究や大学院の研究課題として深泥池のデータを利用してもらうことです.残念ながら私の勤める大学は深泥池から遠く,日常的な調査に研究室として参画することはかなり困難でした.やはり京都市近辺の学生さんに協力してもらうことが理想です.また,研究目的ではなくとも,一種の余暇ないしレクリエーションとして地元住民の方々に参加してもらえればこの事業が成り立つと考えました.当時すでに,深泥池を場とした市民グループとして「深泥池を守る会(当時,田末利治事務局長,現在西村弘子事務局長)」・「深泥池を美しくする会(井上庄助会長)」・「深泥池観察会(西村弘子代表)」があり,住民の方々との連携のもとに活動されていました.そこで,これらの会にご協力いただき,深泥池の水生動物調査を目的とする深泥池水生動物研究会 を立ち上げることにしました.まず1998年1月に呼びかけ文を作り,関係者へ配布したり,メーリングリストなどに投稿して協力者を募りました.その結果,98年3月の時点で34名の方々にご協力いただくこととなりました.この研究会の名は,単に外来動物を目の敵にして排除することを目的とするのではなく,あくまで外来魚類の影響を調査し,深泥池の生物群集の現状を知ることを重視したものです.

外来魚捕獲調査事業の概要

 えりを用いた魚類調査の進め方について,滋賀県立琵琶湖博物館の桑村邦彦さんらと相談した結果,表1のような年間スケジュールを事業の方針としました.基本的には,魚の個体数推定を行なった上で対象魚種を除去し,翌年にも個体数推定を行なって除去効果を判定する流れとなっています.

表1.深泥池外来魚捕獲調査事業の年間スケジュール
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1998年:魚類の生息現況調査と外来魚除去の年
3月〜6月:対象魚種の個体数推定調査(標識放流再捕法による)
7月〜11月:個体数抑制の対象魚種について捕獲除去
 随時:外来魚の影響下にあると目される底生動物相の現況調査

1999年:外来魚除去の効果を判定するための生息現況調査の年
3月〜6月:対象魚種の個体数推定調査(標識放流再捕法による)
      繁殖中の成魚ならびに稚魚の捕獲除去
 随時:外来魚の影響下にあると目される底生動物相の現況調査
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 本事業の開始後,当初対象と想定していた外来魚とは別に大量のカメ類が捕獲されました.その中にはフロリダアカミミガメをはじめとする外来動物が多数含まれておりましたため,急遽カメ類も本事業の対象とすることとし,京都大学理学部動物学教室の樋上正美さんと中島みどりさんに応援を頼みました.この報告書でもご紹介いただきましたように深泥池ではカメの世界でも外来動物問題が進行中である実態が見えてまいりました.
 また,魚類の生息現況調査や外来魚除去作業と平行して,水生昆虫類や甲殻類などをはじめとする底生動物の種組成についてもモニタリング調査を行なうことにしました.これらの調査については,京都市深泥池学術調査団(団長:遠藤彰)の実施する別目的の事業とも連繋して,生物調査に実績のある環境科学(株)に依託し,98年には3月と12月に実施しました.また,98年8月には深泥池水生動物研究会の有志によって,別途大型底生動物相の調査を行ないました.今後,これらの成果を総合して,深泥池の生物群集管理の方針を立てて行くことになるでしょう.

深泥池水生動物研究会の活動経過

 深泥池水生動物研究会では,基本的には表1の年間スケジュールに沿って活動を行なっています(表2の年表参照).これまで,毎月1回打ち合わせ会を開き,作業内容や方法について検討した上で,えりの網上げ(つぼ上げ)作業の1ヵ月先までの分担スケジュールを決めてきました.3月から9月までは,つぼ上げの日を日・月・水・金の週4日としておりましたが,仕事を持つ方も参加しやすいように秋には日・火・木・土の週4日に変更しました.98年中に実施されたつぼ上げ回数は実に112回にも達しました.1回の作業には,魚がたくさん捕れると2〜3時間もかかります.これを照る日も降る日も週4日のペースで続けることは大変な努力が必要です.これらの作業を実質的に担い中心的な役割を果たされたのは,おもに井上庄助さん(深泥池を美しくする会会長)・伊藤昭雄さん(深泥池を美しくする会)・田末利治さん(深泥池を守る会前事務局長)の皆様でした.そのご活躍ぶりは,本書巻末掲載の壺上げ作業出席簿をご覧になっていただければ一目瞭然です.ここに特記して敬意の意を表します.

表2.深泥池水生動物研究会の活動年表
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1998年
 2月 深泥池水生動物研究会の呼びかけ
 3月 西南開水面における底生動物相調査(環境科学(株)へ委託)
    第1回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    えり網設置/魚類個体数推定調査開始
    えり網の魚類の捕獲調査(計10回)
    日/月/水/金の週4日各2〜6人体制で実施
 4月 第2回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    ラジコンヘリコプターによる深泥池の空中写真撮影
    えり網による魚類個体数推定調査(計17回)
 5月 深泥池の外来魚捕獲事業の公開中間報告会開催(1回目)
    (於:深泥池会館)
    第3回打ち合わせ会(於:深泥池会館)(於:深泥池会館)
   えり網による魚類個体数推定調査(計18回)
 6月 第4回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    えり網による魚類個体数推定調査・捕獲除去(計17回)
    オオクチバスとブルーギルの捕獲と成体も含めた標本保存開始
 7月 第5回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    えり網による魚類個体数推定調査・捕獲除去(計14回)
 8月 外来魚捕獲事業は夏休み
    有志による深泥池底生動物の種組成調査
 9月 第6回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    外来魚の捕獲作業再開
    えり網による魚類個体数推定調査・捕獲除去(計14回)
10月 第7回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    えり網の魚類の捕獲調査(計18回)
    火/木/土/日の週4日各3〜8人体制で実施
11月 第8回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    えり網による魚類個体数推定調査・捕獲除去(計4回)
    えり網の撤収/98年調査終了
12月 深泥池の外来魚捕獲事業の公開中間報告会開催(2回目)
    (於:山端自治会館)
    第9回打ち合わせ会(於:山端自治会館)
    浮島における底生動物相調査(環境科学(株)へ依託)

1999年予定
 2月  「生物群集管理中間報告書」印刷
    深泥池水生動物研究会の呼びかけ
    第10回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
 3月 底生動物の種組成調査(環境科学(株)へ依託)(予定)
    えり網設置/魚類個体数推定調査開始
 3月〜6月 魚類個体数推定による事業評価調査
 4月 第11回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
    えり設置場所の空中写真撮影
 5月 3月〜6月 魚類個体数推定による事業評価調査
    第12回打ち合わせ会(於:深泥池会館)
 6月 深泥池の外来魚捕獲事業の公開中間報告会(3回目)
    (於:山端自治会館)予定
12月 深泥池の外来魚捕獲事業の公開最終報告会(場所:未定)
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