深泥池の魚類調査結果と最近20年間の魚類相の変化

竹門康弘(大阪府立大学・総合科学部・自然環境科学科)


はじめに

 深泥池の水生動物に関する知見は,これまでに 深泥池団体研究グループ(1976)深泥池学術調査団(1981)の研究などにまとめられています. 深泥池の魚類相については, 長田・細道(1981)が18種を記録しています. これらの文献によると,少なくとも1970年代の深泥池の魚類相は,近畿地方にある多くの溜め池とほぼ変わらないものであったようです.その後,深泥池の魚類相については,定性的な調査さえも報告されておりませんでした.したがって,深泥池水生動物研究会による今回の調査は実に20年ぶりの調査であることになります.しかも,深泥池の魚類については定量的な調査が行なわれておりませんでした.この点98年の調査は,2統のえり網により合計112回もの捕獲調査に基づいているので,深泥池の魚類相をかなり忠実に反映していると期待されます.とくに,オオクチバス・カムルチ・ブルーギルについては,標識再捕法による個体数推定を行なったことにより,深泥池では初めて魚類の現状について定量的な議論ができるようになったといえます.
 本稿では,98年に全調査を通じて捕獲された魚類の種組成について, 長田・細道(1981) の記録と比較しつつ,深泥池の魚類相の現状を報告します.また,オオクチバス・カムルチ・ブルーギルに関して3月〜6月に実施した個体数推定結果や,7月〜11月に除去したオオクチバスとブルーギルも含めた魚類の捕獲総数とその季節変化について集計結果を紹介します.これらの集計にあたっては,大阪府立大学総合科学部4回生の安田誉仁さんや同3回生の森川陽平さんにパソコンへのデータ入力を手伝ってもらいました.また,現場で個体数やマークの有無などの記録をとっている場合には,データ入力ができますが,一度にたくさん捕獲されたときには,現場での種分け作業や計数が困難でした.この場合には,標本瓶に詰め込んである魚を種分けして,計測・計数しなければなりません.この作業には,かなり膨大な労力を要します.現在は,前述の森川陽平さんが卒業研究の対象として深泥池の魚類を選び,その大方の部分を担当してくださっています.また,一部についは府立商業高校の伴浩治先生が2年生と3年生の生物の授業(タイトルは「お魚の身体検査」)に組入れ ていただき,約340名の生徒さんたちの力で一気に計測作業が進みました.さらに,深泥池を美しくする会の森田文野さんにも一部計測作業を分担していただいております.これらのデータについては,まだ入力や集計が完了しておりませんので,今回ご紹介する総除去数については,まだ修正されることになります.また,個体数推定値についても,全集計後に多少の修正があるものと思われます.

1998年の調査結果

 2統のえり網を用いた計112回の捕獲調査(3月〜11月)によって捕獲された動物の種組成は,魚類14種・カメ類6種・十脚類4種・両生類2種に及びました.これらのうち,魚類について 表1 にリストアップし,78年〜79年の記録と比較してみました.
 この20年間で種組成が大きく変化したことがわかります.コイ科魚類のうちカワムツ・オイカワといった流水性の種,そしてカワバタモロコ・タモロコ・ホンモロコが消えました.ホンモロコは琵琶湖からの人為的な移入と思われますが,カワバタモロコについては,深泥池在来の種と考えられる魚です.かれらは,不定期に行なった投網や手網による捕獲でも一尾も採れていないので,絶滅したことが危惧されます.これに対して,モツゴとコイ・フナ類は健在でした.オオキンブナとキンギョは以前には記録の無かった魚です.これら以外にも,ヒゴイやドイツゴイなど明かに人為的に導入された品種が多数捕獲されました.これらの鑑賞魚が捕獲されたときには,研究会のメンバーでもある山田栄次さん(山田造園経営)に引き取っていただきました.いっぽう,タイリクバラタナゴとシロヒレタビラは全く採れていません.タイリクバラタナゴは,移入種として一時は栄えたようですが最近はめっきり減った魚種の一つでです.深泥池では,これらのタナゴ類も,カワバタモロコとともに絶滅したと考えられます.本報告書にも掲載の近藤高貴さんの調査によると,タナゴ類が産卵場所 に利用するドブガイも絶滅している可能性があり,タナゴ類にとってはまさに苦難の時代です.
 ドジョウとナマズは,少ないながらも現在も生息していることが確認されました.いっぽう,メダカは,えり網では採集されにくい魚と思われますが,メダカの居そうなところでたも網を入れると,カダヤシばかりがたくさんとれます.メダカとカダヤシは分類群こそ違いますが,棲み場所や習性は似ているので,競争によって置き換わってしまった可能性があります.一度,機会を設けて人海戦術で池の全域をたも網で掬って調べてみる必要がありそうです.
 今回の調査対象魚でもあるカムルチー・オオクチバス・ブルーギルはいずれも健在です.まるまる太った健康そうな個体も捕獲されていました. 表1では,ブルーギルが78〜79年に居なかったことになっていますが,桑村邦彦さんのお話しでは,当時から深泥池に定着していたようです(前章参照).
 また,底魚のドンコは採れていませんが,ヨシノボリはまだかなりの個体密度で生息しているようです.ヨシノボリの種名については,まだ詳細に検討しておりません.これも今後の課題です.
以上の結果をまとめると,20年前に深泥池に生息していた19種の魚類のうち,半分近い9種もの魚類が絶滅もしくは激減したことになります.そのかわりに,20年前には記録されていなかった魚種が4種加わったため,全体の種数は14種となりました.ここで,問題なのは,居なくなった魚種のうち7種が在来種であったのに対して,加わったもののうち3種が移入種であることです.結果的に魚類相全体に占める移入種の割合は31.6%から50%へ増えました.現在の深泥池では,何と半数の種が移入種であることになります.この事業自体が,深泥池の外来魚の実態に対する危機感から企画されたものですが,蓋を開けてみれば予想以上に深刻な事態であると思われます.

個体数推定結果

 3月〜6月に捕獲されたオオクチバス・カムルチ・ブルーギルのうち,被鱗長が5cm以上の個体については,マークを着けて放逐し,個体数推定のためのデータをとりました(方法の詳細については前章参照のこと).それらのうち,6月までのデータに基づいて計算した,各魚種成魚の個体数推定結果は,以下のようにまとめられます.
 オオクチバス(ブラックバス):1歳以上の推定個体数は,30〜40個体ときわめて少ない値となった.産卵床は合計72ヵ所確認されており,池全体の生息数は百から数百の範囲にはなるものの,1歳以上のオオクチバスは,それほど多くはないと結論できる.ところが,5月の連休明けから,今年生まれの稚魚が大量に捕獲され,繁殖数は多いことが確認された.これらの結果から,深泥池では,稚魚の数に比べて成魚数が少なく0歳魚の死亡率が高いと推定される.
 ブルーギル:被鱗体長5cm以上の推定個体数は13,000個体とオオクチバスと桁違いに多く推定された.池全体に移動分散できるとは考えられないので,数万尾の桁数で生息していると思われる.
 カムルチ(ライギョ):個体数推定値はオオクチバスとブルーギルの中間で,数百〜数千尾の範囲であった.
 これらに6月以降の捕獲データを加味すると,推定値がもう少し多めとなる可能性もありますが,98年時点で外来魚3種の個体数が,ブルーギル数万尾,カムルチ数百〜数千尾,オオクチバス数十〜数百尾のオーダーであることに大きな変更は生じないと予測しています.これらの結果の解釈や,他の動植物の変化との因果関係については,今後の結果の分析や新たな調査を踏まえて行なう必要がありますが,オオクチバスの成魚個体数の少ない推定値には多少なりとも拍子抜けの感がありました.そして,オオクチバスの0歳魚の死亡率が高いことの理由には,ブルーギル・カムルチ・オオクチバスのいずれかによる捕食も考えられます.そのような可能性を確かめるためには,各魚種を投網などの方法で採集した標本について胃内容の分析をする必要があります.京都大学理学部動物学教室博士課程の足羽寛さんは,胃内容の分析を目的とした魚類標本を投網や巻網で随時捕獲されており,貴重なデータを出していただけるものと期待しております.
 いっぽう,ブルーギルがこれほど大量に生息している事実は,深泥池の生物群集の現況を考えるに当たって,ブルーギルの影響を重視する必要性を示しています.今後の分析結果によっては,ブルーギルを対象とした対策が主要項目として浮かんでくるかもしれません.
 ところで,カムルチの生存数が意外に多かったことは,深泥池の特異さを表わしている可能性があります.1960年代〜70年代には,日本各地の溜め池やお掘りなどでカムルチが暴れていましたが,近年はこれほど多く生息している場所はむしろ稀なのではないでしょうか.この点いついては,これから情報を収集してから結論を出すことにしますが,もし,深泥池が特異的にカムルチを温存している池であることが本当であるとすれば,これもまた深泥池の奥深さの一端であり,その理由を追究することにより深泥池の生物群集がかくも多様でありつづけてきた秘密を明かにできるのではないかと期待しております.

魚類の捕獲総数とその季節変化

 表2表3には,3月〜11月における,各魚種ならびに水生動物の捕獲個体数の月別集計結果をまとめました.それぞれの動物がいつごろどれくらい捕獲されたのかについて,おおよその傾向は読み取れると思います.ただし,ここに集計されているデータは,「つぼ上げ記録用紙」(巻末データ集参照)に記録されている数値のみに基づいており,現場で計数せずに標本にした個体は含まれておりません.これらを含めた総数については,森川陽平さん・伴浩治さん・森田文野さんによる計測データを組入れて集計する予定です.
 表2では,ブルーギルとオオクチバスがそれぞれ8424個体と1330個体と,先の個体数推定値に対してかなり多くの割合が捕獲されたかに見えますが,いずれも98年生まれの稚魚が多く,捕獲除去した成魚の数はそれほど多くはありません.これらの分析のためには,サイズ別の集計をしてさらに検討する必要があります.カムルチについては,捕獲計測後池に再放逐しました.これには異論もありましたが,外来魚除去の効果を考えるとき,除去するものを限定しておかないと何の影響であるかを判断することが困難となります.また,まったく根拠はないものの,1)カムルチは,深泥池に生息を始めてすでに40〜50年経ているので,在来の生物群集の構成種との折り合いがついてきた可能性,2)東洋区からの移入なので進化史的な顔合わせ上早く折り合いがつく可能性なども考えられます.カダヤシは,漸く1個体捕獲されましたが,岸辺や抽水植物群落内には高密度で生息しており,深泥池での生息総数は莫大なものに相違ありません.また,ギンブナ類については,つぼ網内で死亡し標本となったもの以外は放逐しているので,種名の特定は控えることとしました.いず れの魚種も季節的に顕著な傾向を示しており,たいへん興味深い資料であると思います.記録用紙の集計と標本計数データと突き合わせの済んだものからデータも公開していく所存です.


表目次

表1表2表3


参考文献


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